京都地方裁判所 平成5年(ヲ)789号 決定 1993年12月21日
別紙物件目録1記載の不動産に対する平成三年(ケ)第六一号不動産競売申立事件につき申立人から保全処分命令の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件申立てを却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
一、申立人の本件申立ての趣旨及び理由は、別紙「保全処分申立書」及び同「保全処分申立補充書」記載のとおりであるところ、一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 申立人は、昭和六一年五月二八日、申立外渡邊嘉男に対し、金三〇〇〇万円を、相手方杉本守(以下「杉本」という。)を連帯保証人として貸し付けるとともに、杉本との間で根抵当権設定契約(以下「本件根抵当権設定契約」という。)を締結し、杉本が所有していた別紙物件目録1記載(1)の土地(以下「本件土地」という。)及び同土地上の別紙物件目録1記載(2)の建物(以下「本件1建物」という。)につき極度額三三〇〇万円の根抵当権設定登記を受けた。なお、本件土地及び本件一建物については、平成二年七月一二日付けで相手方池田安男に所有件移転登記手続が経由されいてる。
(2) 本件土地上には、本件1建物のほか、別紙物件目録2記載の各建物(以下「本件2各建物」という。)が存している。本件2各建物は、いずれも昭和四三年ころまでに建築されたものであり、いずれもその位置や形状等からみて専ら本件1建物の用に供される建物とみられるが、後記のとおり、平成三年四月二六日に至るまで未登記建物であった。すなわち、本件土地及び本件1建物につき前記の根抵当権設定登記がされた際にも、本件2各建物については本件根抵当権設定契約に係る根抵当権設定登記がされなかった。
(3) 申立人は、平成三年三月一九日、本件土地及び本件1建物につき、当裁判所に不動産競売の申立てを行い(当庁平成三年(ケ)六一号、以下「本件競売申立事件」という。)、当裁判所は、同月二七日、不動産競売開始決定を行った。当庁の執行官は、同年四月六日に本件土地及び本件1建物の現況調査に赴き、また、同月一一日に本件土地及び本件1建物の占有関係の調査のため電話にて杉本から事情聴取を行った。その後、本件2各建物につき、同月二六日、別紙物件目録2記載(1)の建物を主たる建物(家屋番号三一番)とし、同目録記載(2)ないし(4)の各建物をその附属建物とする表示登記(以下「本件表示登記」という。)がされた。なお、本件表示登記における表題部の所有者欄には、相手方池田鶴子の住所及び氏名が登記されている。
二、申立人は、本件根抵当権設定契約においては本件土地及び同土地上の建物全部について根抵当権を設定する旨の約定であったこと、本件土地及び本件1建物に関する杉本から池田安男への上記所有建移転登記手続は譲渡担保として、あるいは執行妨害を目的として行われた可能性が高いとみられること、本件2各建物はいずれも本件1建物と一体又は近接して建築され、本件1建物における居住の効用を高めている建物であり、本来本件1建物の附属建物として登記されるべき建物であること、本件表示登記は相手方らが共謀し、本件競売申立事件に係る執行妨害を目的として行われたものとみられることなどを主張し、競売申立事件において本件2各建物を本件土地及び本件1建物と一括して競売することを可能にする必要があるとして、別紙「保全処分申立書」記載の申立の趣旨の保全処分を申し立てている。
しかしながら、上記のとおり、本件2各建物がいずれも本件根抵当権設定契約の締結前から存している建物であり、その本件2各建物について本件1建物とは別個の建物として本件表示登記がされ、また、本件競売申立事件における目的不動産が本件土地及び本件1建物である(本件2各建物については本件競売申立事件に係る差押登記がされていない)以上、仮に本件表示登記がされた経緯等が申立人の主張どおりの事情によるものであったとしても、本件競売申立事件において本件2各建物を本件土地及び本件1建物と一括して競売することができないことは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、申立人の主張には理由がないと言わざるをえない。
なお、本件2各建物がその位置や形状等からみて専ら本件1建物の用に供される建物とみられることは上記のとおりであって、本件土地及び本件1建物の売却のためには本件2各建物もともに売却されることが望ましいことは申立人主張のとおりであると認められるが、本件2各建物を本件土地及び本件1建物とともに売却するためには、本件2各建物に関し、売却又は強制競売が別途適法に申し立てられ、その申立事件と本件競売申立事件とが併合されることが必要であるものと思われる。
三、以上の次第で、主文のとおり決定する。
物件目録1
(1) 相楽群精華町大字乾谷小字一ノ谷三一番
宅地 三九三・三八平方メートル
(2) 相楽群精華町大字乾谷小字一ノ谷三一番
家屋番号 三一番一
木造瓦葺二階建 居宅
一階 一三六・〇八平方メートル
二階 六八・九七平方メートル
物件目録2
(1) 相楽郡精華町大字乾谷小字一ノ谷三一番地
木造瓦葺平家建 居宅物置
四〇・九〇平方メートル
(2) 木造瓦葺二階建 物置
一階 一五・五二平方メートル
二階 一五・五二平方メートル
(3) 鉄筋コンクリートブロック造陸屋根平家建 物置
一二・〇五平方メートル
(4) 鉄筋コンクリートブロック造陸屋根平家建 車庫
一八・三三平方メートル
保全処分申立書
申立の趣旨
1. 相手方池田鶴子は、別紙物件目録記載の建物についての別紙登記目録記載の表示登記につき、所有者を相手方杉本守とする更正登記をせよ
2. 相手方池田鶴子、同池田保男および同杉本守は、別紙物件目録記載の建物について、所有権保存登記をしてはならない。
との決定を求める。
申立の理由
1. 申立人は、昭和六一年五月二八日、申立外渡邉嘉男に対し、相手方杉本守を連帯保証人として、金三〇〇〇万円を貸付け、相楽郡精華町大字乾谷小字一ノ谷三一番宅地三九三・三八m2および別紙物件目録記載の建物(当時未登記。以下「本件建物」という)を附属建物とする同土地上建物家屋番号三一番一木造瓦葺二階建居宅(以下右土地および三一番一建物をあわせて「本件物件」という)について極度額三〇〇〇万円の根抵当権の設定を受けた。
なお、後日判明したところによれば、上記三〇〇〇万円は歯科医であった申立外渡邉嘉男が相手方杉本守の依頼に基づき開業資金名目で借受け、内金二〇〇〇万円は相手方杉本守に交付され同人がこれを費消した模様である。
2. 申立外渡邉嘉男および相手方杉本守は、平成二年八月二五日に約定分割弁済を怠り、期限の利益を喪失した。このため、申立人において申立外渡邉嘉男および相手方杉本守に対し支払を督促するとともに、本件物件の登記簿を調査したところ、平成二年七月一二日、相手方池田安男に同日付売買を原因とする所有権移転登記が経由されていることが判明した。
しかし、元所有者である相手方杉本守はその後現在に至るまで本件物件に居住し続けており、右売買は虚偽で、真実は上記根抵当権が設定されていることを熟知したうえでの譲渡担保もしくは競売を想定した執行妨害である可能性が高い。
3. そこで、申立人は、相手方池田安男にてき除通知を送付したうえ、平成三年三月、本件物件について、競売の申立てをして、同月二七日、競売開始決定(御庁平成三年(ケ)第六一号事件)を取得し、翌二八日、右決定を原因とする差押登記を得た。
4. ところが、相手方らは、御庁所属執行官矢口義明が平成三年四月六日に現況調査に訪れた直後の同月二六日、本件建物について、相手方池田安男の妻である同池田鶴子を所有者とする表示登記を経由し、現在に至っている。
5. ところで、右表示登記申請書には、主たる建物について、相手方池田鶴子の近隣に住民票を置く谷口信なる人物の昭和四二年一〇月一〇日新築、同月三〇日引渡を内容とする建物引渡証明書が添付されている。しかし、相手方杉本守が本件物件の所有権移転登記を得て同所で居住を開始した時期が昭和五五年二月二一日であり、相手方池田安男が本件物件の所有権移転登記を得たのが平成二年七月一二日であることからみて、相手方池田鶴子が昭和四二年一〇月三〇日に主たる建物の引渡を受けたとする上記建物引渡証明書の記載が虚偽であることは明白である。
6. また、附属建物1ないし3については夫である相手方池田安男の平成三年四月二四日譲渡を内容とする譲渡証明書が添付されている。相手方池田安男の所有権を証する平成三年四月二三日付固定資産評価証明書記載の各建物についての平成二年度固定資産評価証明書の記載によれば、附属建物2と認定された建物の所有者は相手方杉本守であり、附属建物1および3と認定された建物の所有者は杉本長次郎(杉本守の前主の被相続人)とされているが、納税義務者は相手方杉本守とされている。
このほか、相手方杉本守および知人と称する松田宏なる人物の建物所有権証明書が添付されているが、その根拠については何も記載されていない。
7. 以上の表示登記申請書添付書類および前記の事情を考慮すれば、相手方杉本守は、昭和五五年二月二一日、本件建物を未登記のまま本件物件とともに交換によって取得したが、本件物件とともに競売申立されたことを知るや相手方池田安男およびその妻同池田鶴子と共謀のうえ、右競売手続を妨害するべく、本件建物が未登記であることを奇貨として、これにつき同池田鶴子を所有者とする表示登記を経由したことは明らかである。
8. 相手方らが行った前記表示登記申請行為は、本来、本件物件の附属建物として一括して売却されるべき本件建物をあたかも競売対象物件でないかの如く仮装し、本件物件の価格を著しく減少させる行為であり、債務者として抵当権者に対して抵当物件の担保価値の維持に協力すべき義務に違反する行為であって許されないものである。
申立人は本件建物につき執行力ある公正証書に基づく強制競売申立中であるが、もし万一、相手方池田鶴子を所有者とする前記表示登記を利用して所有権保存登記が行われた場合には、本件物件の競売手続は極めて困難となることは明らかである。
よって、本申立に及んだ次第である。
疎明資料
疎甲第一号証の一ないし三 不動産登記簿謄本
疎甲第二号証 現況調査報告書
疎甲第三号証の一および二 評価書
疎甲第四号証 表示登記申請書写し
疎甲第五号証 報告書
疎甲第六号証の一ないし三 住民票
疎甲第七号証の一ないし四 固定資産評価証明書
保全処分申立補充書
上記当事者間の御庁平成五年(ヲ)第七八九号保全処分申立事件について、次のとおり、申立を補充します。
1. 申立人は、昭和六一年五月二八日、申立外渡邉嘉男に対し金三〇〇〇万円を貸し付ける際、<1>相手方杉本守外一名を連帯保証人とすること、<2>相手方杉本守所有にかかる相楽郡精華町大字乾谷小字一ノ谷三一番の自宅土地建物に極度額三〇〇〇万円の根抵当権を設定することをその条件とした。
2. 上記二条件のうち、相手方杉本守の自宅土地および同地上のすべての建物に根抵当権を設定することについては、申立外渡邉嘉男もその交渉に立ち会っている。その際、相手方杉本守から申立人に対し、未登記建物が存在することや、建物の一部について根抵当権の設定を留保する旨の申し出はなく、相手方杉本守が未登記建物を含めて、根抵当権を設定したことは、申立外渡邉嘉男の陳述書によって明らかである。
3. 他方、本件建物の表示登記は、執行官の現地調査により自宅土地建物が競売申立されることを知った相手方杉本守が、同人に対する債権の担保として自宅不動産の登記名義を取得した同池田安男と共謀のうえ、右競売手続を妨害するべく、本件建物が未登記であることを奇貨として経由したものである。このことは、相手方池田安男が申立外渡邉嘉男に対する言動からも明らかである。
4. 本来、本件建物は、家屋番号三一番一の建物(以下「主建物」という)の附属建物として登記されるべきものである。すなわち、本件建物のうち登記簿上主たる建物として表示登記されている家屋番号三一番の建物は、主建物に接着して建築され、構造的には主建物と一体とみるべきものである。また、本件建物のうちその余の建物は、いずれも主建物に近接する倉庫および車庫で、主建物における居住の効用を高めるものである。
逆にみれば、主建物は、本件建物を附属建物としてこれと一括して売却されることによって初めて本来の価値を有するものであり、それゆえ御庁においても、平成三年一一月二九日からの期間入札についての物件明細書において、売却物件として本件建物を含めて記載されたものと思料する。
5. しかるに、相手方らが行った前記表示登記申請行為は、本件物件の附属建物として一括して売却されるべき本件建物をあたかも競売対象物件でないかの如く仮装し、本件物件の価格を著しく減少させる行為であり、債務者として抵当権者に対して抵当物件の担保価値の維持に協力すべき義務に違反する行為であって許されないものである。
6. よって、御庁におかれては、平成三年(ケ)第六一号不動産競売事件において本件建物を一括して競売するための売却前の保全処分として、頭記ご決定をされるよう切に要望する次第である。
追加疎明資料
疎甲第8号証 陳述書